-体表に色がつくメカニズム-

高橋淑子 本研究科生物科学専攻教授、田所竜介 同助教らの研究チームは、ニワトリ胚を用いてメラニンが輸送される瞬間をライブイメージング解析し、そのメカニズムにはRhoタンパク質が重要な役割を担っていることを発見しました。

 

本研究成果は、2016年12月2日午後7時に英国の学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、高橋教授、田所助教

 私たちは基礎科学者として、化粧品開発を越えたさらなる未来を見据えた社会貢献を目指しています。というのも、メラニンによる体表着色は、UVからの生体防御のみならず、生物多様性の問題に深く関わっているからです。たとえばトリや哺乳類の体表模様は、個体識別や生殖戦略に欠かせないものです。また野生の動物は、敵から身を隠すための体表カモフラージュという能力も獲得しています。これらの体表戦略が動物の進化の過程でどのように獲得されたかを理解することは、生物多様性の成り立ちとその保全にとって必要不可欠なものです。このように本研究の成果は、細胞間コミュニケーションというミクロレベルから、動物間コミュニケーションというマクロレベルまでを包有するものであり、基礎研究が開く社会貢献のよいモデルと位置づけられます。

概要

皮膚は、絶え間なく襲いかかる紫外線から体を守ってくれる大切な器官です。中でもメラニンは特に重要で、メラニンが上手く働かないと皮膚ガンなどの原因となります。メラニンは顆粒として色素細胞で作られた後、隣接する表皮細胞へと運ばれることは以前より知られていました(これを「メラニン輸送」と呼びます)。しかしその仕組みはよく分かっていませんでした。また、これまでのメラニン輸送の研究では、色素細胞と表皮細胞を培養シャーレの上で解析しており、結論を巡る研究者の意見も分かれていました。

 

そこで本研究グループは、ニワトリ胚を用い、3D皮膚におけるメラニン輸送の瞬間をムービー撮影(ライブイメージング解析)しました。

 

その結果、色素細胞の細胞膜上にできた水疱状の構造(細胞膜ブレッブ)内にメラニン顆粒が包み込まれ、そのブレッブが色素細胞からくびれ切れて、膜小胞となって細胞外に放出され、隣の表皮細胞へと取り込まれることを発見しました。これら一連の過程には、転移ガンなどで知られているRho蛋白質が重要な役割をもちます。

 

本研究は、これまで論争になっていたメラニン輸送の議論に対して、一定の決着をもたらしました。そしてこれらの成果は、尋常性白斑や皮膚ガンなどの重篤な病気や、しみ・そばかすといったコスメティックス分野の発展へと寄与できることが期待されます。

図:色素細胞において合成されたメラニン顆粒が、Rho依存的に作られる膜小胞を介して周囲の表皮細胞に輸送される。
この結果、表皮細胞が褐色に色づく。
 

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